株式会社あわやとこうしゅくゼロ推進協議会は6月24日、竹田市で「抱え上げない介護」研修セミナーを開きました。医療・介護の施設経営者や現場の介護職員など約50人が参加。先進事例などを紹介しながら、「抱え上げない介護」を実践することで、要介護者や患者の変形・拘縮を防ぎ、ひいてはそれが介護レベルや満足度の向上、施設の人材確保などにもつながるということを詳しく解説しました。また、海外ではすでにスタンダードとなっている様々なタイプの移乗リフトの体験も行いました。
こうしゅくゼロ推進協議会の3氏が講演
- 石橋弘人氏
(同協議会副代表理事・事務局長) - 山形茂生氏
(同協議会教育部会長) - 山下陽子氏
(同協議会教育部会海外情報担当)
「脱・人力介護」で変形・拘縮を防ごう
変形・拘縮の原因
長時間にわたって不自然な体勢でいたり、筋肉を緊張させ続けることで変形・拘縮はおこります。具体的には、寝ている人に声掛けなしで急に起こすとビクッと固まる、抱え上げによる痛みで筋肉が緊張する、身体に合っていない車いすに何時間も座らされるなどの状況がよく見られます。
変形・拘縮が進むと、褥瘡(じょくそう)や誤嚥、排泄障害、認知症など、様々な症状を引き起こし、悪循環に陥ってしまします。
変形・拘縮は日本でしか起こらない?
これまで日本では、お年寄りの変形・拘縮は「仕方ないもの」と思われてきました。専門家である、医療職や介護職に就いている人たちでさえそう思っている人が多数です。
しかし、ヨーロッパなどの福祉先進国の状況を調べてみると、変形・拘縮しているお年寄りはほとんど見られず、「拘縮は日本でしか起こっていない可能性が高い」ということがわかってきました。では、その海外と日本の違いとは何でしょうか。
ISO(国際標準化機構)は2012年に、医療・介護従事者の腰痛対策や被介助者の転倒・苦痛防止として、人力での移乗介助を原則禁止し、福祉用具を使った移乗を推奨・義務化するガイドラインを作成しました。日本でも厚生労働省が腰痛要望対策指針を定め、事業者に対して労働者の健康を確保するよう求めています。オーストラリアや米国、デンマーク、ドイツなどの各国はISOのガイドラインに基づき、移乗リフトなどの普及を進め、人力での抱え上げを無くす、「抱え上げない介護」を推進してきました。人力での抱え上げ法律で禁止している国もあります。
人力介護のデメリット
・介護者の腰痛の原因になる
→人材が安定しない
・老々介護の事故とケガを引き起こす
→見よう見まねの介護で圧迫骨折が増加
・被介護者の肉体的・精神的苦痛
→変形拘縮を引き起こす
→被介護者が痛いので叫んだり暴力をふるう(98%以上の職員が体験)
→暴力を受けた介護者による虐待へ発展するケースも
忙しい医療・介護の現場では、機械や用具を使うより人力でやった方が早いという意見が多く聞かれます。たしかに慣れた人の手でやれば手早くできるかもしれません。しかし現代の介護現場で求められているのはそういった「早い介護」ではなく、本当に患者・利用者に優しい介護ではないでしょうか。
日本の抱え上げない介護先進地・高知県
高知県は全国に先駆け、県をあげて抱え上げない介護を推進する「ノーリフティング宣言」を行いました。「持ち上げない・抱え上げない・引きずらない」と人力介護を原則禁止し、移乗リフトやスライディングボード(移乗ボード)など、様々な福祉用具を活用して、利用者に緊張や苦痛を与えないケアを推進し、成果をあげています。
ある施設のトップは「職員の離職率が大幅に下がった。早くやっておけばよかった。腰痛などで辞めていった職員に申し訳ない」、現場の責任者は「人力介護にはもう戻れない。利用者の笑顔が増えることで職員の笑顔が増えた。私たちが本当にやりたかった介護がわかり、やりがいを見つけられた」と話していました。
優しい介護と福祉用具が日本を救う
2025年問題で人手不足が深刻化
団塊世代の高齢化で人口の20%が「後期高齢者」となる2025年問題は、医療介護業界が直面している喫緊の課題です。社会保障費の増大による制度の維持もさることながら、現場の人材不足も深刻な問題となります。若手の確保ももちろん必要ですが、中高年でも介護ができる環境の整備や、離職率の軽減が必要となります。
職場環境改善、職員の意欲向上の糸口に
高知県での事例でもあるように、被介護者、介護者双方に優しい抱え上げない介護は、それぞれの満足度を高めます。人力介護による「苦痛→暴力→虐待」の悪循環から、抱え上げない介護で「満足度向上→笑顔→やりがい」の好循環が生み出されます。
福祉用具を活用することで、肉体労働を軽減し、「ブラック職場」というイメージの強い医療介護の現場を、「ホワイト化」して人材確保につなげます。また、肉体労働が減った分、サービスの質の向上に重点を置くことができ、ただのお世話ではない本当の意味での「ケア」を実現できます。
経営トップと現場トップの意識改革がカギ
医療サービスを提供する病院や介護施設の職員が、腰痛で苦しんでいるようでは本末転倒です。
また、長年経験のある介護職員の中には、電動リフトなどは時間がかかって仕事にならないなどと決めつける人がいます。ある調査では、2人介助の場合にパートナーが揃うのを待っている時間と、1人でリフトを使って移乗する時間がほとんど変わらないという結果も出ています。トイレや移動などで1日に何十回と抱え上げられ、そのたびに苦痛を感じ、それが拘縮を引き起こし、ケガや暴力、虐待を生んでいるとしたら・・・。
電動リフトなどの大きな機械をいれなくても、声かけや身体に合った用具の選定、点ではなく面で受けるためのポジショニング、スライディングボードを使った移乗や、スライディンググローブを使った移乗後の圧抜きなど、簡単なことからでも効果は目に見えます。
トップの意識改革から、率先して抱え上げない介護を実践することが、職場環境改善のカギとなります。
様々なタイプの移乗リフトを体験
セミナーでは、3氏による講演のほか、移乗リフトの体験も行いました。床走行、レール走行、スタンディングの各タイプのリフトで、スリングシートの装着から移乗、を実際のに沿って体験した。
また、作業療法士の山形氏による、スライディンググローブを使った圧抜きの実演も。
移乗リフトの出張デモンストレーション
介護ショップあわやでは、各種電動移乗リフトの出張体験・デモンストレーションを行っています。
病院や施設に実機を持ち込み、職員の方に体験していただきます。
詳しくは下記メールフォームからお問い合わせください。