団塊世代が75歳以上になり、人口の約20%が後期高齢者になると言われている2025年問題。人材不足が慢性化している介護業界にとって、さらに厳しさが増す深刻な問題です。
介護職に人が定着しない理由としてもっとも多いのは心身的負担です。人手不足にによる長時間労働や過労、抱え上げによる腰痛、利用者との人間関係精神的負担・・・。
それらの問題解決の一助になるのが、介護者にも利用者にも優しい「ノーリフティングケア」なのです。
「ノーリフティングケア」とは、介護・医療の現場で頻繁に出てくる移乗などの作業を、人力に頼った抱え上げをいっさい行わず、電動リフトなどの福祉用具を用いて、介護者、要介護者双方に優しい介護を目指すものです。
力ずくの介護は介護者にとって重労働であり、また、要介護者にとっても体が痛いだけなく間接拘縮、褥瘡を招くなどの身体的負担や、「きつい仕事をやってもらって申し訳ない」という負い目を感じさせ、精神的負担も大きくなります。
また、介護者にとっては、腰痛の一番の原因となり、プロの介護職でも3人に1人が腰痛に悩まされていると言われるほど、介護の現場では腰痛が深刻な問題となっており、そういったことから、介護従事者が定着せず、慢性的な人手不足の要因ともなっています。
近年、少子高齢化が深刻化し、2025年問題が現実のものとして近づいてきている中、ようやく「ノーリフティングケア」が認識されはじめてきており、全国でこの概念を取り入れようと機運が高まってきています。
ノーリフティングは海外では当たり前 電動リフトなどを使った移乗介護は、ヨーロッパなどの海外では当たり前のこととして定着しています。そのため、ノーリフティングが普及している国々では、変形拘縮がほとんどないと言われています。
ある福祉先進国の関係者は、力ずくの介護を行う日本の現場を視察し「これは虐待だ」と大変ショックを受けていたそうです。
日本国内では「人の手でなく機械を使った介護は暖かみがない」などといった先入観から、なかなかノーリフティングの普及が進んでいません。実際にはまったくの逆で、人の手による力ずくの介護ではかえって介護者、要介護者双方の負担が大きいのが事実です。
日本の先進地・高知県の事例 高知県は全国に先駆け、県をあげて抱え上げない介護を推進する「ノーリフティング宣言」を行いました。「持ち上げない・抱え上げない・引きずらない」と人力介護を原則禁止し、移乗リフトやスライディングボード(移乗ボード)など、様々な福祉用具を活用して、利用者に緊張や苦痛を与えないケアを推進し、成果をあげています。
ある施設のトップは「職員の離職率が大幅に下がった。早くやっておけばよかった。腰痛などで辞めていった職員に申し訳ない」、現場の責任者は「人力介護にはもう戻れない。利用者の笑顔が増えることで職員の笑顔が増えた。私たちが本当にやりたかった介護がわかり、やりがいを見つけられた」と話していました。
適切な用具の活用を ノーリフティングケアを行うためには、「電動リフトなどの設備が必要なんでしょ?そういった高価な機械を導入する余裕はない」といった声をよく聞きます。たしかに、電動リフトなどを導入するにはそれなりのコストがかかります。
しかし電動リフトなどを使わず、簡単・安価な道具だけでできることもあります。
声かけや身体に合った用具の選定、トランスファーボード(スライディングボード)を使った移乗や、スライディンググローブを使った移乗後の圧抜きなど、簡単なことからでも効果は目に見えます。
経営トップと現場トップの意識改革がカギ 高知県での事例でもあるように、被介護者、介護者双方に優しい抱え上げない介護は、それぞれの満足度を高めます。人力介護による「苦痛→暴力→虐待」の悪循環から、抱え上げない介護で「満足度向上→笑顔→やりがい」の好循環が生み出されます。
福祉用具を活用することで、肉体労働を軽減し、「ブラック職場」というイメージの強い医療介護の現場を、「ホワイト化」して人材確保につなげます。また、肉体労働が減った分、サービスの質の向上に重点を置くことができ、ただのお世話ではない本当の意味での「ケア」を実現できます。
医療サービスを提供する病院や介護施設の職員が、腰痛で苦しんでいるようでは本末転倒です。
また、長年経験のある介護職員の中には、電動リフトなどは時間がかかって仕事にならないなどと決めつける人がいます。ある調査では、2人介助の場合にパートナーが揃うのを待っている時間と、1人でリフトを使って移乗する時間がほとんど変わらないという結果も出ています。トイレや移動などで1日に何十回と抱え上げられ、そのたびに苦痛を感じ、それが拘縮を引き起こし、ケガや暴力、虐待を生んでいるとしたら・・・。
トップの意識改革から、率先して抱え上げない介護を実践することが、職場環境改善のカギとなります。
介護ショップあわやでは、面移動リフトを使った「ワンルームケア」を展開するなど、ノーリフティングケアの普及に取り組んでいます。「ワンルームケア」は大分県の経営革新支援に認定されています。
お客様にいつでも電動リフトを体験していただけるよう、大分、竹田、豊後大野の全事業所に面移動リフトを設置し、スタッフもスリングシートの脱着や移乗の技術、またそれらの指導技術向上のため訓練を繰り返しています。
また、2017年には、こうしゅくゼロ推進協議会と共同で研修セミナーを開きました。竹田市、豊後大野市の2箇所で合わせて約130人の介護従事者や施設経営者が参加し、ノーリフティングケアについての講義を受け、様々なタイプの電動リフトを体験していただきました。
2017年度にこうしゅくゼロ推進協議会と共催で、ノーリフティングケアの研修会を竹田市と豊後大野市で開きました。
同協議会の石橋事務局長がノーリフティングケアの重要性やその効果を詳しく説明し、山形教育部会長が実際の介護技術を実演しました。
座学のあとでは、電動リフトなどノーリフティングケアに欠かせない福祉用具の体験も行いました。
今年度も同様のセミナーを大分市などで開催予定です。
セミナー全編の動画を公開しています。詳しくはそちらをご覧ください。
社会福祉法人直心会(中津市三光)の障がい者支援施設 修光園に天井走行リフトを10部屋に設置しました。
スウェーデンのアルジョハントレー社(ArjoHuntleigh)の面移動が可能な電動天井走行リフト「マキシスカイ2」を設置。10部屋の設置にかかった工事期間は延べ約10日間です。走行レールは天井からの吊り下げ式なので、部屋のスペースをほとんど侵害しません。
施設長が職員のみなさんに「ノーリフティングケアの勉強会に初めて参加したときには衝撃を受けました。私が現場に出ていたころは『人力介護』が当たり前でなんとも思っていませんでしたが、そのことが利用者さんの変形拘縮や褥瘡をまねき、また、一緒に働いていた仲間の腰痛など、もしかしたらその人達の人生を変えてしまったかもしれないと思うと悔やんでも悔やみきれませんでした。みなさんにはそのような思いをしてほしくありません。最初は時間がかかるかもしれませんが積極的に活用してください」と話していたのが印象的でした。
近年の社会状況を見ますと、7年後の2025年には、団塊の世代の方々が75歳となり後期高齢者の人口が急激に増加し、介護を必要とする方々が増加するので、社会保障費が莫大に増加すると言われています。また、介護業界で主流となっている「人力による介護」では、介護者の腰痛や肩痛を助長していますから、介護職を目指す若者が減少しているのです。
福祉用具に注目すると、介護保険における消費費用の中で福祉用具の消費金額を見ると年間3%未満なのです。いかに福祉用具が活用されていない事が分かります。自立(律)を促進し介護負担を軽減するためには、適切な福祉用具を活用して自立(律)生活を目指すことが必要と思います。現状の人力介護を主とする社会保障の考え方では、社会保障費が莫大に増加するだけでなく、ヘルパーなどの支援者が不足し、寝たきりを促進させることが予想できます。
これらの対策のため、厚生労働省も「在宅医療の充実、地域包括システムの構築」に取りかかっており、在宅医療介護連携等の取り組みを本格化しているのです。特に、「高齢者や障害者は、可哀想とか手助けしなければならない」というような一種の思い込みのある高齢者や障害者支援に関わる関係者や教育者の指導による介護が行われると、自立性が軽視され、介護ばかりが重視される傾向も存在しているといえます。そのため、一人一人の自立(律)生活に向けたニーズとデマンドに対応した支援方法を構築し、実際に実行することが大切なのです。
この様な状況の中、「株式会社あわや」は、在宅介護を扱う「ワンルームケア」として、天井走行リフトや据え置き式リフトなどで要介護者と介護者の双方の負担軽減を図る支援やケアマネージャーと一体となって住宅改修の事業を福祉用具のレンタルと販売と合わせて行っておられます。また、福祉用具を活用した介護負担の少ない介護方法と、本人に痛みを感じさせないやさしい介護のために、職員に対して研修会なども行っておられ、全国に先駆けて「ノーリフティングケア」を実践すると共に、地域で「抱え上げない介護」セミナーのなども開催されています。
私たちこうしゅくゼロ推進協議会は、ノーリフティングケアを推進されている「あわや」の考え方と事業を推奨します。そして、高齢者や障害者(児)が拘縮や変形を起こすことのない生活を獲得し、生活の質を向上させるための支援方法や福祉用具の活用方法の構築を協力して行って、明るく楽しい生活事例を増やしていきたいものです。
大学3年生の時に交通事故で第9胸髄を損傷し、車椅子の生活となる。全く足が動かない私の身体機能でも手動車椅子で自立生活を行うことができる様にり大学へ復学、卒業。
労働福祉事業団総合せき損センターの医用工学研究室に就職し、身体障害を持った身体を活かして、福祉用具の研究開発と住環境設計研究に着手する。
身体障害者などの生活実態調査と移動・移乗・姿勢関連機器の研究開発、そして2級建築士の免許を取得して住環境の設計研究を行い、学会などで発表をおこなう。
佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センターに異動してからも「医療と生活支援技術」や「生活行動支援論」などの教鞭をとりつつ、同様の研究を継続。
これまでに、特許41件、住宅改造1900件、生活相談9000件程を行って支援。
こうしゅくゼロ推進協議会ホームページへ
介護ショップあわやでは、各種電動移乗リフトの出張体験・デモンストレーションや研修会を行っています。
病院や施設に実機を持ち込み、職員の方に体験していただきます。
詳しくは下記メールフォームからお問い合わせください。